Chapter 2「禁秘」
目が覚め、気が付くとそこは、見た事の無い空間だった。
ここに来る前の記憶が無い。。。何故だ。。。
それにしても、一体誰が私を運んでくれたのか。。。?。
ふと辺りを見渡すが、それはとても洗練された美しい部屋であった。
すると、「あっ、気が付きました?。いきなり倒れたから驚いちゃって、放っておけなくて家までお連れしました」
「貴女が。。私を。。?」
「はい!でも良かったぁ、意識が戻って。数日間ずっと眠ったままでしたよ?」
(我ながら情けなかった。見ず知らずの人間に助けられるとは。。。。)
彼は心の中で、自らを許す事が出来なかった。普段は獲物として喰らいつく生物に命を救われた事に。
「そうか。。。気づかぬ間に。。。色々とご迷惑をお掛けした。。。そろそろ、失礼するよ。。。」
「待って!まだ動いたら駄目!休まないと。。。」
「もう大丈夫だ。お気遣い、感謝するよ」
必要な礼を伝え、部屋を立ち去ろうとした時、彼女は掠れた小さな声で呟いた。
「。。。まだ。。。ここに居て欲しいのに。。。」
(思わず、声に出して言ってしまった。。。彼にバレていないかしら。。。?)
何故だ。引き留める理由は一体何だ。
気に留める様な事ではないはずなのに、思わず問いかける。
「何故だ?助けて貰った事には感謝している。それに、長居をする訳にもいかない。。。」
しかし、彼女の返答は、心臓を貫く矢の如く鋭い物だった。。。
「貴方、本当は人間ではないでしょ。。。?」
人間ではない。そう聞いて疑いを含めた眼を向けている。
「。。。どうしてだ。。。?私は人間だ」
「見てしまったの。。。貴方の。。。口の中にある。。。牙を。。。」
その場の空気が凍りつき、時が止まってしまったかの様な衝撃が彼を覆い尽くした。
「。。。。そうか。。。見られてしまったのか。。。。」
「ごめんなさい。。。決して見るつもりではなかったの。。。」
「気にしなくて良い。些細な事だ、忘れてくれ」
安堵したかと思えば、彼女は更に問いかけた。
「ねえ、もしかして貴方は吸血鬼?」
「それは。。。。今は言えない。。。」
私は思わず口籠ってしまった。。。
「何故?今が駄目なら後でも話してくれる?」
「。。。出来るだけそうしよう。。。」
人間に自分の秘密を打ち明ける等、今まで無かったか。
暫く、無言の空間で何も言わず、ただ身体を休めていた。
すると、隣に彼女が腰掛けた。
「何か困ったら、何でも言ってね?力になるから」
「あぁ、心遣い感謝するよ」
「。。少し、良いかしら?」
そう言って、私の隣で寄り添ってきた。
「こうするとね、何だか昔を思い出して安心するんだ。。」
「そうなのか。私も君が傍に居ると落ち着く」
「貴方が人間でも何でも良いわ。。。どんな生物でも、生きている事に変わりはないし、心が通じ合えば言葉も要らない」
「もしも、私が人間ではなく、異形の怪物でもか?」
「えぇ、全ての生物は皆家族だと思うわ」
「君は海の様に寛大な優しさを持っているのだね」
彼女は照れくさそうに、微笑んでいた。
一時の平穏を楽しんでいた。
若い女らしい、可愛げある表情だ。
長い間、多くの人間達が私を化け物と蔑み、罵ってきた。
しかし今は、とても暖かい気持ちに包まれている。
本当に心優しい娘だ。
とても不謹慎だが、こういう女はとても美味な物だ。
熟す頃に頂いてしまおう。。。
心にも無い言葉で、惑わせてみよう。。。
「君は実に美しい。。。」
「えっ。。。?どうしたの。。。?」
「すまない。。つい君に見惚れてしまった。。。」
羞恥の余り、顔を背けてしまった。
「そんな。。。美人でもないのに。。恥ずかしいな。。。」
やはり女というのは単純な生き物だ)
彼は邪な思惑を秘めながら、獲物を喰らおうと目論む。
次第に目線が、彼女の身体へと向かっていく。
だが感づかれたのか、即座に話題を変えられてしまった。
もう少しの所で。。。まぁ良い、お楽しみは後程。
「そう言えば、まだお名前を聞いていなかったわね」
名前。。。長い間忘れ去っていた物だ。
しかし、この娘には名乗っても良かろう。
「レーナ。そう呼んでくれたまえ」
「素敵なお名前ね。私はナナ」
「君らしい良い名だな。私には何処か懐かしい気もするが」
「誰か、親しい人と同じとか?」
「それが、今は思い出せないんだ。。。。記憶の一部が欠落しているみたいだ。。。」
「。。。ごめんなさい、気に障ったよね。。。?」
「いや、君は悪くない。これは私の問題だ。いずれ記憶も戻るだろう。すまない、暫く一人になりたい。外で風に当たってくる」
重苦しい雰囲気に耐え兼ねて、無我夢中で飛び出してしまった。
要らぬ気遣いをさせてしまったか。少し俯いた様子で落ち込んでいる様だった。
それにしても、一体何故記憶の一部が無いのか。。。
時が経てば戻るとも思えないが、どの道今は手の施しようがない。
先ずは。。。血を補給せねば。。。
(はぁ。。。何だか余計な事を聞いちゃったなぁ。彼の事、全然知らないから無理もないよね。。
昔からだった。気になる事は口に出してしまう。悪い癖よね。。。
嫌な女って思われたかも。。。謝らなきゃ。。。でも今は。。。一人にしてあげよう。。。後で戻ったら、必ず。。。)