Chapter 6「零涙」
呼吸を乱す事無く、そっと話し始める。。。
「ナナ、君との約束を果たす時が来たようだ」
「んっ、どうしたの?それに約束って。。。?」
「私の秘密を打ち明けると言っただろう?。もう、君に隠し事はしたくない。全てを話そう」
ナナは静かに、レーナの言葉に耳を傾けていた。
「初めて会った時から気付いていたとは思うが、君の言う通り私は。。。吸血鬼だ。正確には、その血を継承しているに過ぎない」
予想外の答えにナナは息を呑み、語り口を聞いていた。
「じゃあ、今は人間なの?私と同じ。。」
「残念ながら完全な人間では無い。吸血鬼であり、実は堕天使や怪人でもあるのだ」
立て続けに降りかかる言葉が、隕石の如く彼女の心に衝突した。
「今の私は、人間の姿をした醜い化け物なのだ。真実を打ち明ける事が、これ程苦痛を伴うとは。。ナナ、色々とすまない。。。」
押し黙るナナの姿に、レーナは深い罪の意識を感じていた。
この娘には余りにも残酷な真実であろう。
解っていたはずなのに。。。恩を仇で返す結果になってしまったか。。。
少なからず二人の間には、友情でも愛情でもない、種を超えた絆が生まれていたはずだ。
魔物の男と人間の女が互いに惹かれ合ったのは紛れもない真実。
レーナとナナは目を合わせる事すら出来ない位に、孤独に押し潰されそうになっていた。
そして勇気を出し、レーナはナナの顔を覗き込むと。。。
彼女は何も言わず、静かに泣いていた。
何故涙を流しているのか、その理由を聞くまではいかなかった。
すると、いつ以来口を開くか思い出せないが、唇を震わせながら一言ずつ話し始めた。
「。。。ねぇ。。レーナ。。。?私は貴方に近づいたり触れたり、話したり一緒に居て良いのかな。。
。?」
そう語り掛けるナナの頬を、一筋の涙が伝い零れていた。
何かを恐れているかの様な中に、離れたくないという純粋な願いを見出していた。
レーナは自らの信念に従い、この娘を失望させまいと全身全霊で応えようとする。
「ナナ、君は魔物である私を受け入れてくれるのか?何よりも醜いこの私を。。。」
この問い掛けに彼女は優しい口調で答えた。
「貴方が例え化け物だとしても、時間を掛けて知っていくわ。どんなに傷ついても良いの。。。だから。。。ずっと。。。一緒に。。。」
ナナの言葉に込められた、レーナを想う気持ちは心からの贈り物であった。
だが一つ、共に生きていく中でレーナには耐え難い事を隠していた。
それは。。。彼は決して死なない。そう、不老不死なのだ。
一人老いていくナナを見守らなくてはいけない。
この事実を打ち明ければ、更に心を砕いてしまうだろう。
しかし、もう何も隠しはしない。現実から逃げない。
彼女の傍で共に生涯を生きていこう。
「聞いてくれ。私は不老不死で、君は人間として老いて寿命が尽きれば死を迎える。だが、これからは君の為に時間も心も捧げよう。ナナ、これからは二人で生きていこう」
彼は不死の生涯の中で、人間と過ごす事を決意したのだ。
自分の傍で朽ちていく彼女を見守り、愛し続けると。。。。
レーナの決意の込められた誓いにナナは涙ながらに答えた。
「貴方は死なずに私が先に生涯を終えても、向こうでいつまでも貴方を待ってます。。。」
もう何も要らない、この娘が居てくれればそれで良い。
こんなにも穏やかで優しい気持ちになったのは初めてだろう。
「ナナ。。。君を。。。心から。。。愛している。。。」